平成26年3月12日(水)~3月13日(木)にかけて、東日本大震災の被災地である宮城県内の復興住宅施策・事例の現状を知るために、新築災害公営住宅の事例と官民協働の復興応援住宅展示場を訪れてきました。
今回の取材活動にあたってご協力頂いた方々は次の皆様です。
・社会福祉法人柏松会 常務理事 早坂 聡久 様
・株式会社鈴木弘人設計事務所 押切 一哲 様
今回の取材の目的は、①震災後3年数か月を経過した被災地における住宅復興の現状を災害支援公営住宅(山元町新山下駅周辺地区第2期災害公営住宅/宮城県亘理郡山元町)の事例から知る②同じく民間住宅復興施策の一例を被災地に新しく作られた住宅復興応援住宅展示場(復興応援岩沼ハウジングアベニューのぞみ/宮城県岩沼市)の事例から知る事でした。
■取材地域概要(基本データ)
①山元町(宮城県亘理郡山元町)
●位置:宮城県の最南東に位置し、東は太平洋に接し南は福島県相馬郡新地町と接する。
●人口:13,184人(平成26年2月28日現在)
●主な産業:農業・漁業
●交通アクセス:鉄道は町内をJR常磐線が縦断していたが(坂元駅・山下駅)、震災の影響により現在まで休止中。道路は国道6号線が町内を縦断している。
●人的震災被害状況:死者635人・行方不明者0人(出所:山元町総務課ホームページ資料)
*リンク≪東日本大震災被災状況≫
*リンク≪被災前・被災後写真比較≫
②岩沼市(宮城県岩沼市)
●位置:宮城県の中央部で仙台市の南17.6㎞に位置し、東は太平洋に接し南は亘理町と接する。
●人口:21,508人(平成26年2月28日現在)
●主な産業:工業・商業
●交通アクセス:鉄道はJR東北本線とJR常磐線が市内で分岐・縦断している。道路は国道4号線と国道6号線が鉄道と同じく市内で分岐・縦断している。また、市内には仙台空港(国際空港)がある。
●人的震災被害状況:死者148人・行方不明者2人(出所:岩沼市ホームページ資料)
*リンク≪岩沼市の震災被被害≫
■取材地域の復興計画概要
①山元町震災復興計画(出所:第5次山元町総合計画基本構想資料から抜粋)
山元町では、平成23年12月に住民説明会への参加および意向調査、パブリックコメント等の手続きを経て「山元町震災復興計画」を策定しました。
●基本理念:「チーム山元」を共通骨子とし次の3つのポイント基本理念としています。
(1)災害に強く安全安心に暮らせるまちづくり
(2)だれもが住みたくなるようなまちづくり
(3)つながりを大切にするまちづくり
●復興の将来像:『キラリやまもと!みんなの希望と笑顔が輝くまち』
●グランドデザイン:「土地利用計画」から抜粋
土地利用計画
・新JR常磐線と国道6号線を軸とした市街地の形成
・安心して暮らせる住宅・宅地の供給
・減災を視野に入れた防災緑地ゾーンの整備
・災害に強い交通ネットワーク整備
●重点プロジェクト:次の事業により早期復興を目指すとともに山元町らしさを創出する
(1)住まいる(スマイル)プロジェクト:災害公営住宅整備事業・復興土地区画整理事業ほか
(2)山元ブランド再生プロジェクト:いちご団地化整備事業・農水産物直売地建設事業ほか
(3)人口減少・少子高齢対策プロジェクト:子どもの遊び場確保事業・定住促進事業ほか
(4)防災力向上プロジェクト:防潮堤復旧事業・放射能対策事業ほか
②岩沼市震災復興計画マスタープラン(出所:岩沼市総務部復興推進課資料から抜粋)
岩沼市では、平成23年4月25日庁内に岩沼市震災復興本部を設置し、計画期間を7年と定めた「岩沼市震災復興基本方針」を決定しました。その後のグランドデザイン提言で策定した内容を踏まえ、今後7年間の具体的な取組内容を「岩沼市震災復興計画マスタープラン」を平成23年9月に策定しました。
●基本理念:「愛と希望の復興」を復興ビジョンとし、次の4つを基本理念としています。
(1)チーム岩沼・オール岩沼・オールジャパン
(2)歴史を大切にした安全・安心な市域づくり
(3)時代を先取りした先進的な復興モデル
(4)岩沼の個性、特性を活かした産業の再構築
●計画期間:本計画の計画期間は、平成23 年度から29 年度までの7 年間としており、「長期的な視点に立った基本理念を実現するため、復旧期・復興期・発展期を設定し、スピード感を持って各種事務事業に取組みます。」と表明しています。
●復興のためのリーディングプロジェクト
(1)すみやかな仮設住宅の建設と暮らしの安定(主な項目を抜粋)
・応急仮設住宅における暮らし及び心のサポートとして、仮設住宅サポートセンターを開設し高齢者や障害者などの方々の日常生活を包括的にサポートする。
(2)農地の回復と農業の再生
・塩に強い植物の試験栽培や新規作物の導入を行う農家を支援し、早期の農地回復と特産品の開発、バイオエネルギー化、観光分野での活用等を検討する。
(3)津波よけ「千年希望の丘」の創造
・「千年希望の丘」などのメモリアルパークの整備にあたっては、諸外国、国内外の企業やNPO・NGOなどのペアリング支援による実現方策を検討する。
●ペアリング支援:ペアリング支援とは、一つの団体や市町村が一つの被災地と互いに助け合って信頼関係を育み、持続的に支援をしていく方法です。
■災害復興住宅(山元町)の事例
●名称:山元町新山下駅周辺地区第2期災害公営住宅
●所在:宮城県亘理郡山元町浅生字新館前48外
●団地概要:敷地面積/約13,000㎡ 用途地域/未線引 建物構造規模/木造平屋建て(2LDK)~2階建て(3LDK) 述床面積/2LDKタイプ64.99㎡ 3LDKタイプ79.84㎡ 総戸数/40戸
「災害復興公営住宅とは」
復興公営住宅(災害公営住宅)とは、災害により住宅を滅失し、自力での住宅再建が難しい方の為の、公的な賃貸住宅です。基本的には公営住宅と同様となりますが、所得による入居制限が緩和されております。低所得者に対しては数年間の家賃の低減化が図られた住宅です。
「希望と未来のある我が家に向けてのスタート」
山元町での復興計画によると、町内にはまちづくり復興事業の対象となっている地区が3つ(新山下駅周辺地区・新坂本駅周辺地区・宮城病院周辺地区)あります。平成27年度に全ての地区で住宅供給事業が完了する予定で、新たに710戸の住宅が再建されることになっています。
そのうち災害公営住宅は約68%の487戸を計画しており、先陣を切って新山下駅周辺地区第1期整備事業は終了しております。また、災害公営住宅以外の民間住宅等用宅地の活用施策については、土地区画整理事業、防災集団移転促進事業及び漁業集落防災機能強化事業により造成/供給される宅地数(災害公営住宅分を除く。)を計上しています。
現在の住宅整備事業進捗状況は、先行する新山下駅周辺地区が94%(用地取得率)で新坂本駅周辺地区では99%となっています(平成26年2月28日現在)。今後、宅地造成~区画整理~住宅着工と進んで行く予定です。3つの地区になった背景は、山元町の復興計画にもある通り、「コンパクトシティ化を図る」施策の一環であり、住宅・都市機能を市街地に集約する狙いがあります。
「ただ造るだけではない。自然な触れ合いを生出す工夫を施した住まい。」
今回訪れた団地は、新山下駅周辺地区災害公営住宅の第2期区画です。当該区画の西隣に第1期区画が約1年前に完成しており、住民の方の暮らしも板に付いていました。第1期・第2期とも、この新山下駅前周辺地区の公営住宅は一戸建(賃貸)てとなっております。
第1期区画では、安全と合理性を求め玄関前に駐車スペースとスロープをコンパクトに配置していると共に、木目を活かしたサイディングに工夫を凝らしています。これに続き第2期区画では、駐車場とスロープの形状が視界と交流の阻む要因となる事を避けるため、区画全体の地盤を盛土して各戸の玄関廻りのスロープを排除しています。これにより、お隣さん同士が自然に顔を合わせる流れを作れるようにしています。
【ふれあいが生まれる共用歩道】
■復興応援住宅展示場(岩沼市)の事例
●名称:復興応援岩沼ハウジングアベニュー のぞみ
●所在:宮城県岩沼市押分字奥山15‐2
●展示場概要:主催/株式会社オオバ東北支店 出展ハウスメーカー/14社(14棟) 後援/宮城県・岩沼市・岩沼市三軒茶屋西土地区画整理組合・宮城県地域型復興住宅推進協議会・みやぎ復興住宅整備推進会議
「復興応援住宅展示場のぞみとは」
そもそも「震災復興応援住宅」とは、公的に定義された名称と言うものではなく、ハウスメーカー等が被災者にも住宅取得がしやすい配慮がなされた商品を呼ぶ名称として広く一般化されたものです。今回訪れた復興応援 岩沼ハウジングアベニュー「のぞみ」は、東日本大震災における被災地では初となる官民協働の住宅復興支援のための取組みとして平成25年4月から2年間稼働する計画の住宅展示場です。
基本的には一般の住宅展示場と変わりはありませんが、基本コンセプト震災被災者の復興を支援する目的があるため、①各社被災者支援モデル住宅を展示②岩沼市の住まい再建相談窓口を併設③宮城県の後援等が備わった官民協働プロジェクトです。
展示場は、一般の土地区画整理事業地区内に設置されており、場内には一般住宅も点在する珍しいケースとなっています。これらのプロジェクトは、東京都目黒区にある大手総合建設コンサルタントの株式会社オオバがプロデュースしています。通常の住宅展示場では、まさに「夢のような」住宅が展示されていることも多く、被災者にとっては必ずしも現実的とは言えません。被災者のために価格設定を下げた商品を展示し、官の相談窓口も併設することによって官民協働の支援を実現しています。
【復興支援住宅展示場入口看板】
■「前進はしている。だけど復興には時間が掛かる。」
山元町の事例は、名称の通りJR新駅開設が予定されている周辺の市街地に立地しています。しかし、今回現を初めて訪れた時は「住宅だけが建っていてまだ他には何もない」印象でした。
それもそのはず、昔の駅と常磐線は新駅予定地よりも海岸沿いに建設されており、先の震災で駅舎・線路ともに壊滅しています。現状では住宅以外の都市機能はまだありません。新駅開設の予定は、JRのプレスリリースでは平成29年春頃とされており、今から3年程先の事になります。取材先の災害公営住宅でも独居を含む高齢者の方も多く住まわれる事が想定されており、人的なサポートネットワークの必要性が感じられました。
一方の岩沼市の事例では、官民の協働で震災被災者の住宅建設のバックアップ施策を紹介しました。宮城県土木部住宅課では、被災者の二重になる住宅ローン支援対策として住宅再建支援補助事業を実施しております。
これは、震災で消失した自宅に関する未償還の住宅ローンがある被災者について、5年間を限度に利子補給する制度です。大変ありがたい制度ではありますが、内容は利子補給であり建設費補助ではありません。被災者の方が今後長い間借入金返済の負担を背負って行くことに違いはありません。
*リンク≪東北地方の鉄道復旧状況について/JR東日本東北支社H25.3.16発表≫
■おわりに
2011年の10月に最初の被災地復興支援活動の取材をさせてもらってから3度目の事業となりました。今回は、ニュース等で見かけることが少ない宮城県南部地域に取材事業では初めて伺いました。
これまでの取材に協力して頂いた沢山の方に感謝するとともに、微力ながら今後少しでも役立つ事ができるよう努力していきたいと思っております。
震災後3年を経過し、改めて不幸にも震災で亡くなられた方のご冥福をお祈りすると共に、被災された多くの方々にお見舞い申し上げます。また、今後の復興を心より祈念いたしております。
文責:広報委員会