平成27年1月21日(水)、3年前に引続き、公益社団法人全日本不動産協会宮城県本部(所在/宮城県仙台市青葉区上杉1-4-1)を訪れお話を伺ってきました。今回も次の方々に出席頂きました。
・公益社団法人全日本不動産協会宮城県本部 本部長 齋藤 晋 様
・同事務局局長 菅原 四郎 様

前回、宮城県本部に東日本大震災の被災状況や復旧・復興の見通しについて取材させて頂いたのが3年前の平成24年の真夏でした。
今回は、あれから3年を経過し、街づくりの専門家の視点から、被災した街がどの様に復興したか、またどの様な支援活動がなされているか等を中心にお話を聞かせて頂きました。

小①【齋藤本部長(右)と菅原事務局長(左)】

■復興はまだ遠い。今は、課題が見えてきたところ。
今回訪れた場所宮城県本部の事務局がある場所は、仙台市の中心街であり宮城県庁本町社の向い側という立地です。仙台市の市街地では、人の往来も多く活気が戻っています。一見すると、復興は成し得たか・・・と見えますが、市街地を離れ津波の被害が大きかった沿岸部や周辺の住宅街では、物理的な復旧・復興が未だ完了していない事に加え、高齢者の生活支援や空家問題など、震災被害以前の生活ソフト面の問題などのも重なって、事態は複雑化している状況です。「復興」の文字が現地生活者として実感できるまでにはまだ数年先ではないか、というご意見でした。

小③

 

 

【隣接する宮城県庁本庁舎】

小②

【現在のJR仙台駅前】

■現在の被害状況
宮城県内では、震災被災者が自宅倒壊等の理由から一時転居を強いられ、現在帰宅できていない方が未だ約6万人~約7万人いるとの事です。特に被害が大きかった宮城県においては、津波の被害エリアが広範囲だった事が、復旧・復興を阻害している要因となっています。

表1【警察庁広報資料『平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の被害状況と警察措置』平成27年1月9日 発表】

  人的被害 物的被害
死者 行方不明者 全壊 半壊
全国 15,889人 2,594人 127,531件 274,036件
岩手県 4,673人 1,130人 19,107件 6,609件
宮城県 9,538人 1,256人 82,993件 155,126件
福島県 1,611人 204人 21,393件 74,539件

 

(1)人口の減少

宮城県を含む震災被害が大きかった地域では、人口の自然減に加え社会的減少も深刻な問題となっています。東日本大震災前(平成23年3月1日現在)における県全体の推計人口2,346,853人と比較すると,18,588人減少しています。(データ元:宮城県震災復興・企画部総務課 人口統計データ月報)

(2)社会的転居と伸び続ける空家率
「住宅に住めなくなった」理由で転居した世帯は,被災3県で8割強
●都道府県別の転居世帯数は,宮城県(7.4万),福島県(7.1万),岩手県(2.5万)の被災3県で全体の5割強
●「住宅に住めなくなった」理由で転居した世帯数は,宮城県(5.3万),福島県(4.0万)及び岩手県(2.0万)の被災3県で8割強。「その他の理由」での転居では,東京都及び福島県(3.0万)が最も多い。

表①

東日本大震災により転居したのは33万世帯

●全国で東日本大震災により転居した世帯は33万世帯
●住宅に住めなくなった世帯が13.3万世帯(40.5%),その他の理由での転居が17.9万世帯(54.3%)

表②

総住宅数は,6063万戸と5.3%の上昇 ・ 空き家率は,13.5%と過去最高に
●総住宅数は6063万戸と,5年前に比べ,305万戸(5.3%)増加
●空き家数は820万戸と,5年前に比べ,63万戸(8.3%)増加
空き家率(総住宅数に占める割合)は,13.5%と0.4ポイント上昇し,過去最高
●別荘等の二次的住宅数は41万戸。二次的住宅を除く空き家率は12.8%

表③

(データ元:総務省統計局「平成25年住宅・土地統計調査(速報集計)結果の要約」)

(3)集団移転の難しさ
集落が津波等で壊滅した沿岸住宅地区などでは、これまでより山間に住宅地を造成・開発して集団移転を検討してきた地域は多くありました。これは、公的な事業費の助成があって可能性が具体化する内容ですが、それ以前に住民の「この場所に留まりたい」「他の場所に住んだことがなく不安である」などの意識的な背景から、特に高齢者においては新しい住宅地に転居することに同意できず、機械的な集団移転が実現しない状況もあります。

(4)今後の災害復興住宅・仮設住宅の活用方法
現在、宮城県における災害復興公営住宅の整備率は80%を超えているとのことです。また、同県内における一般住宅も含めた空室率は9%と比較的少なく、震災被害における住宅問題は解消傾向にあるように思われます。
しかし、今後人口の自然減少や居住者の高齢化問題が顕著になった場合、特定の目的で建設(活用)してきた住宅の空室化が予想されています。これらの問題を解消する手立ては今のところ官民含め具体的な策はないとのことです。

(5)災害復興住宅・仮設住宅における独居高齢者世帯(夫婦のみ高齢世帯)の問題
各種報道や、社会福祉の専門家等がこれまでも盛んに指摘してきた問題です。今回取材させて頂いた宮城県本部でもこの様な問題があることを述べておられました。
専門的な解決策は解り得ませんが、住み慣れた自宅を離れ、環境の異なる場所で暮らす事によるストレスから様々な疾病や意欲減退を招き、通院の困難等の問題も相まって、高齢者の健康不安を招いています。また、そういった危険性のある高齢者への未然の対策(コミュニティでの見守り・声掛け)等にも温度差があり、街づくりの専門家団体も難しい問題と考えています。

(6)その他課題
①住宅建設費の高騰
②農産物の風評被害
③防潮堤建設工事
④勤務先がなくなった理由による就労問題
特に、③の防潮堤建設工事(復旧及び嵩上げ新設工事)については、景観と防災の両方の棲み分けをどのようにすべきなのかは簡単に決着するものではありません。工事をするにしても、沿岸部に続く河川復旧工事と技術的にリンクする場合もあります。ハード面での対策以外に、避難経路の確保と周知徹底などの行動管理で対処する方法の議論もあるようです。

■問題解決の糸口は?
先に述べた諸問題の解決へのヒント(復興に必要なもの)は何かを伺ったところ次のようなポイントを挙げられていました。これら意見を参考に、問題解決と真の復興が期待されるところです。
(1) 沿岸部生活者をはじめとする被災者の生活費支援
(2) 就労支援
(3) 他地域から不慣れな場所に移り住んできた方の生活支援のためのコミュニティ形成
(4) 郊外部~山村地域における空家対策(活用など)と独居高齢者等への医療支援

■平成28年度 全国不動産会議の計画について
公益社団法人全日本不動産協会の第52回全国不動産会議(平成28年度)は、宮城県で開催される予定です。毎年全国の組合員をはじめ、地域関係者や市民の方々が数千人規模で参加されます。来年予定の全国不動産会議のホスト支部である立場から、どのようなテーマ・内容になるかを伺いました。
現在計画されている内容は次の通りとのことです。
●テーマ:東日本大震災の状況と復興へのこれまで(東日本大震災から5年を経た今)
瓦礫対策・産業復興対策・防災教育としての被災建築物保存について
●メインセミナー:講師・内容 協議中
●基調講演:講師 東北大学加齢医学研究所 川島 隆太 教授
●その他イベント企画:震災の経緯も交えながら観光復興の現状にスポットを当てた「松島から平泉」までのツアー等

■先ごろ50周年を迎えた宮城県本部
公益社団法人全日本不動産協会宮城県本部は、昭和38年11月25日に全国14番目の地方本部として誕生しました。平成25年に50周年を迎えております。盛大な式典を経て、翌平成26年3月25日には「全日宮城50周年史」を刊行しています。

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『全日宮城50周年史』表紙
宮城県本50周年史_小① 宮城県本50周年史_小②

『全日宮城50周年史』東日本大震災関連記事(P40.~P43.)

 

【リンク】

宮城県総合ホームページ

公益社団法人全日本不動産協会宮城県本部ホームページ

(おわりに)
今回(も)忙しいなかご丁寧に対応頂いた皆様に感謝すると同時に、被災者・地域の復興を心より願っております。

文責:広報委員会