今回は、「親なき後も、知的障害のある子どもの暮らしと権利を守りたい」との理念のもと様々な当事者や保護者への権利擁護活動を行っている、NPO法人むさしの成年後見サポートセンター「こだまネット」を訪問し、日頃の活動の特徴やエピソードについてお話を伺ってきた模様をお伝えします。
こだまネットでは現在、成年後見制度、権利擁護、意思決定支援等の講演会、親なき後講座、親なき後の相談会等の活動などを行なっています。
【ご協力頂いた方】
○むさしの成年後見サポートセンターこだまネット理事長 後藤 明宏 様
○むさしの成年後見サポートセンターこだまネット副理事長 内田 ひとみ 様
【取材場所】
○武蔵野市内拠点(JR三鷹駅周辺)
【訪問日時】
○令和5年3月20日(月)午前10:00~午前11:30
■「親なき後」問題
障害を持つ子どもの親にとって、親である自分がいなくなった後、「わが子の日常生活はどうやって守っていくのか」「誰に対してどのようにわが子の将来を託せばよいのか」「わが子の老後はどうなるのか」などの問題があります。
当事者にとって、ひとりで不安やなやみを抱えずに、制度や地域資源を上手に活用し、障害を持つこどもと親が、少しでも安心できる生活を得ることは、とても重要な課題となります。
●障害者の状況(障害者数推計)
厚生労働省が公表したデータ(*¹)によると、障害者数は、身体障害者436.0万人(人口千人当たり34人)、知的障害者109.4万人(同9人)、精神障害者419.3万人(同33人)であり、およそ国民の7.7%(*²)が何らかの障害を有していることになります。
*¹データ出所:厚生労働省「令和2年版厚生労働白書 障害福祉」
*²データ出所:総務省統計局「人口推計(2023年2月20日公表)/総人口12,463万人」
【表】障害者数(推計)*¹ |
||||
総数 |
在宅者 |
施設入所者 |
||
身体障害児・者 |
18歳未満 |
7.2万人 |
6.8万人 |
0.4万人 |
18歳以上 |
419.5万人 |
412.5万人 |
7.0万人 |
|
年齢不詳 |
9.3万人 |
9.3万人 |
– |
|
合計 |
436.0万人 (34人) |
428.7万人 (34人) |
7.3万人 (1人) |
|
知的障害児・者 |
18歳未満 |
22.5万人 |
21.4万人 |
1.1万人 |
18歳以上 |
85.1万人 |
72.9万人 |
12.2万人 |
|
年齢不詳 |
1.8万人 |
1.8万人 |
– |
|
合計 |
109.4万人 (9人) |
96.2万人 (8人) |
13.2万人 (1人) |
|
総数 |
外来患者 |
入院患者 |
||
精神障害者 |
20歳未満 |
27.6万人 |
27.3万人 |
0.3万人 |
20歳以上 |
391.6万人 |
361.8万人 |
29.8万人 |
|
年齢不詳 |
0.7万人 |
0.7万人 |
0.0万人 |
|
合計 |
419.3万人 (33人) |
389.1万人 (31人) |
30.2万人 (2人) |
(注)1.( )内数字は総人口1,000人あたりの人数(平成30 年人口推計による)
●年齢階層別の障害者数
同じく厚生労働省のデータ(*¹)によると、身体障害者では、65歳以上の割合の推移を見ると、昭和55年には38%程度だったものが、平成28年には64%まで上昇しています。
また知的障害者では、身体障害者と比べて18歳未満の割合が高い一方で、65歳以上の割合が低い点に特徴がありました。
外来(通院)の精神障害者65歳以上の割合(*³)を見ると、令和2年10月における統計データでは、65歳以上の割合は43%となっています。
この様に、日本社会における高齢化の波は、障害者にとっても同様で、障害を持ちながら高齢者としても生活している方が増加していることがうかがえます。
*³データ出所:厚生労働省「令和2年(2020)患者調査の概況」を基に算出
●住まいの状況
また、同じく厚生労働省のデータ(*¹)によると、在宅の身体障害者(18歳以上)の住まいとしては、8割以上が本人又は家族の持家に住んでおり、借家や借間等の割合は少ない結果でしたが、在宅の知的障害者(18歳以上)の住まいとしては、自分の家やアパートが8割以上を占める結果となりました。
外来(通院)の精神障害者の住まいとしては、約4分の3が家族と同居しており、一人暮らしは2割弱となっています。
以上の結果から、在宅で生活する障害者にとっては、親亡き後の持家である自宅に関する「相続問題」や、賃貸の場合の「障害者本人の住まいの確保」など、専門的な問題が残されることになると考えられます。
■「こだまネット」の役割と概要
●「山彦の会」から「こだまネット」へ
こだまネットは、長年障害者福祉活動を行ってきた「山彦の会」を母体としています。
山彦の会は、武蔵野市内の心身障害児者を持つ親の会として昭和53年2月に設立し、主に知的障害の立場から親同士の啓発・交流の場として、また、市民への啓発活動や行政への意見、要望等活発な活動を継続してきました。
そうした中で、近年は親の高齢化にも伴い親なき後の支援が喫緊の課題となり
そうした背景から平成24年には親なき後や成年後見制度についての勉強会を開催し参加者が延べ309名にのぼりました。
その後、平成25年には、法人後見の検討や多角的継続的な体制のもと支援を行うことの必要性を感じ、NPO設立に向けて準備会発足させ、その翌年の平成26年4月に、山彦の会とは独立して、親なき後を考えた成年後見等の支援をサポートするNPO法人として「こだまネット」を設立いたしました。
こだまネットの設立に当たっては山彦の会有志を始め、活動理念に賛同した数多くの専門家(弁護士、司法書士、社会福祉士)の協力や参加をいただきました。
●NPO法人むさしの成年後見サポートセンター「こだまネット」組織概要
〇名称:特定非営利活動法人 むさしの成年後見サポートセンターこだまネット
〇所在地:東京都武蔵野市西久保二丁目6-5-206キャニオングランデ武蔵野
〇Tel:080 4343 8722 〇Fax:050 5865 0663
〇e-mail:musashino.kodamanet@gmail.com
〇設立年:平成26年4月(認証日:平成26年3月25日)
〇代表者:後藤 明宏 様
〇主な事業:成年後見制度等権利擁護に係る広報・啓発事業、及び相談事業、活用支援事業
■こだまネットが実施する権利擁護
こだまネットでは、山彦の会から続けてきた「親なき後も、知的障害のある子どもの暮らしと権利を守りたい」との理念のもと、成年後見制度を通じ、知的障害があっても、認知症で判断能力が不十分になっても、地域で自分らしく生きていくための支援活動を行っています。
●主な支援事業の内容
事業名 |
内容 |
実施場所 |
相談 |
成年後見制度・権利擁護に関する個別相談会の開催 |
武蔵野市立かたらいの道市民スペース又はオンラインのハイブリット開催 |
啓発研修 |
・個別テーマ講演会の開催(成年後見制度・遺言相続等) ・親なき後講座 ・会報の作成配布 |
コロナ禍ではオンライン開催 |
親なき後事業 |
専門職後見人と集いを通じた成年後見制度活用支援 |
コロナ禍ではオンライン開催 |
■こだまネットが行う支援事業の特徴
➀親なき後講座での『こころのバトンノート』作成
こころのバトンノートとは、親なき後も当事者への支援を引き継ぐためのツールです。
「終活」にみられるエンディングノートでは、当事者本人が元気なうちに、自身の終末期の過ごし方や逝去後の資産・備品などの取扱いについて、引き継ぐ人へ想いを託すツールとして活用されていますが、こころのバトンノートは、親なき後成年後見人のほか障害を持つ子どもへの支援を引き継ぐ人へ、親の想いとともに、生活様式や日常で必要な経費の拠出先など具体的な支援方法を記したツールとなります。
こころのバトンノートは、こだまネットの「バトンノート小委員会」で足掛け2年をかけ内容を協議し、こだまネット会員をモニターにした上で、現在の形となりました。
親なき後講座では、こころのバトンノートを配布するだけではなく、受講者が自らノートを作成することで、新たな気づきや、自身の老いじたくへの動機づけが得られる効果があります。
➁『こだまカフェ』
こだまネットでは、主軸となる事業のほかに小規模な地域支援の活動も行っています。
こだまカフェとは、会員が気軽に勉強したり専門職へ相談できる交流会です。
毎回成年後見制度や権利擁護に関するテーマに沿って、地域のコミュニティセンターなどで専門職の方がミニ講義を行い、その後個別の相談に答える内容のプログラムです。
■課題と今後の展望
コロナ禍では、対面交流が制限された困難はありましたが、オンライン形式で遠隔地の方や、外出ができない方とも交流が図れる効果もあり、今後も対面形式とオンライン形式のハイブリットでプログラム実施していきます。
また、地域では障害者分野の専門職後見人が少ないため、今後広域な専門職後見人のネットワークを作る活動も行っていく予定です。
組織役員の高齢化や、相談の件数増加や内容の高度化に対応すべく、若年層への周知活動、武蔵野市福祉公社との連携強化などを進めていきます。
文責:中央支部広報公益委員会