今回は、中央区福祉保健部生活支援課を訪問しまして、平成27年から施行されている「生活困窮者自立支援制度」の説明を中心に、新たな生活困窮者の自立支援の全体像についてお話を伺って参りました。特に、住居の確保はこれら施策の中心的役割を担っており、宅建業者にはとても身近なテーマとなります。

□ご協力頂いた方
【中央区福祉保健部生活支援課】
〇生活支援課長 倉本 伊知郎 様
〇生活支援課相談調整係 根本 真紀 様
●所在:東京都中央区築地1-1-1 4階(☎03-3546-5303/受付:午前9時~午後4時30分)
●訪問日:平成28年12月19日(月)

【三吉橋から見た中央区役所庁舎】

【三吉橋から見た中央区役所庁舎】

 

■生活支援課の役割

今回お話を伺った生活支援課には、民生・児童委員の活動支援・管理や生活保護費の金銭支給等を主に行う地域福祉係と、生活保護に関する相談調整やホームレスの相談援護他を中心に行う相談調整係、生活保護に関する個別援護等を行う生活福祉主査(係)があります。生活困窮者自立支援制度利用に関する相談支援は、相談調整係が担当し、良く知られた生活保護制度に関する支援とは別に、同じセクションが並行して行っているため、かなり忙しく対応されています。

■生活困窮者自立支援制度とは?

生活困窮者自立支援制度とは、平成27年4月からスタートした新しい制度です。
これについて厚生労働省では、「生活全般にわたるお困りごとの相談窓口が全国に設置されます」と謳っており、生活保護に至っていない生活困窮者に対する「第2のセーフティネット」として、これまで専門の窓口で個々に抱えていた個別ニーズを包括的に支援することが特徴の制度です。この制度に位置付けられた各種支援を実施することによって、生活保護に至らない、及び生活保護から脱却した人が再び生活保護に頼ることの無いようにすることが狙いです。この中でも「就労支援」と「居住の安定化(住居の確保)」は大きな柱となっています。(*データ出所:厚生労働省社会・援護局地域福祉課生活困窮者自立支援室 資料より)
〇この制度の対象者
・現在生活保護を受給していないが、生活保護に至る可能性のある者で、自立が見込まれる者。
〇制度施行の背景
・福祉事務所来訪者のうち生活保護に至らない者が年間約40万人(H23年度推計値)おり、これらの人々の実態把握・生活支援が生活保護防止の最善策と考えられています。
・生活困窮者の増加
(1)非正規雇用労働者の増加:平成12年 26.0%→平成25年 36.7%
(2)年収200万円以下の給与所得者の増加:平成12年 18.4%→平成25年 24.1%
(3)高校中退者:約6万人(平成25年度)
(4)中高不登校:約15.1万人(平成25年度)
(5)ニート:約60万人(平成25年度)
(6)引きこもり:約26万世帯(平成18年調査の推計値)
(7)生活保護世帯のうち約25%(母子世帯においては約41%)の世帯主が出身世帯も生活保護を受給
(8)大卒者の貧困率が7.7%であるのに対し高卒者では14.7%高校中退者を含む中卒者では28.2%
〇これまでの支援
・自治体とハローワークが一体となった就労支援
・民間団体と連携した自治体独自の多様な就労支援
・居住の確保:住宅支援給付(平成26年度までの時限措置)
・貸付・家計相談
・子ども・若者への学習支援/養育支援/居場所づくり/就労支援:地域若者サポートステーションによる就労支援(平成18年度から実施)

➡以上のこれら施策に対して下記の課題が指摘されてきました・・・
●一部の自治体のみの実施
●各分野をバラバラに実施
●早期に支援につなぐ仕組みが欠如
これら課題を解消して実のある支援策を実施すべく、生活困窮者自立支援制度が創設されました。

■生活困窮者自立支援制度の中身

前述の通り、就労支援と居住の安定化が支援の重要な要素です。また、この制度はあくまで本人の自立支援を促すものですので、生活保護の様な金銭給付ではなく、相談支援(相談対応)が中心であり、その分マンパワーと地域連携が必要不可欠となります。
制度の運用は、自治体が一部自由に決めるとされており(地域ニーズが各所異なるため)、メニューの中身には地域差が出て来ると見られています。支援の実施は、地域連携の下、社会福祉法人・NPO・その他民間法人等に委託して実施することもできます。
①就労支援
・就労準備支援事業(一般就労に向けた各種訓練)
・中間就労支援(直ちに一般就労が困難な者に対する支援付きの就労の場の育成)
・生活保護受給者等就労自立促進事業(一般就労向けた自治体。ハローワーク一体の支援)
②居住確保支援
・居住確保給付金の支援(就職活動を支えるための家賃相当額を有期で給付)
③緊急的支援
・一時生活支援事業(住宅喪失者に対し一定期間衣食住の必要な日常生活を支援)
④家計再建支援
・家計相談支援事業(家計状況を「見える化」し利用者の家計管理の意欲を引き出す相談支援)
⑤子供支援
・子どもの学習支援事業(生活保護世帯のこどもを含む生活困窮世帯の子どもに対する学習支援)
⑥その他支援
・民生委員・自治体・ボランティアなどのインフォーマルな支援

【制度案内パンフレット(中央区)①】

【制度案内パンフレット(中央区)①】

【制度案内パンフレット(中央区)】

【制度案内パンフレット(中央区)②】

【住宅確保給付金の制度案内(中央区)①】

【住居確保給付金の制度案内(中央区)①】

【住宅確保給付金の制度案内(中央区)②】

【住居確保給付金の制度案内(中央区)②】

 

■地域連携で宅建業者に期待されることとは?

先行事例として、北九州で生活困窮者の生活支援を長らく行っているNPOとSUUMOでおなじみの㈱リクルートホールディンググループである㈱リクルートフォレントインシュア(RFI)が連携して、生活支援付き居住支援パイロット事業を実施しています。
これは、保証機関であるRFIが入居者の家賃滞納が発生した際に、早期に「生活困窮のシグナル」を発見し、NPOと連携して各種生活支援策(就労支援・子どもの学習支援ほか)を素早く実施する内容となっています。この事例では、①生活困窮の早期発見②実働機関と予め情報連携の体制を構築する事などがポイントと考えられます。
また、生活支援課のお二人とのお話の中で、日常の事例を通じ、次のような役割が宅建業者に求められるとの言葉を頂きました。
【宅建業者が期待される役割】
生活困窮者支援の「相談窓口がある事」を知らせること
入居者の生活困窮のシグナルの早期発見
この制度に理解のあるオーナーの物件情報の提供

この制度は、生活保護対象の前段階の方を対象としているため、全前述の通り金銭給付(生活保護費の住宅扶助等)は支援のプログラムに入っていません。家賃等支払等具体的な金銭的支援が必要になると判断された場合には、社協・制度連携の社会福祉法人等が実施する支援制度がある場合には利用を検討するなどの流れに繋げます。

■その他知っておきたい中央区での支援事例の特徴

生活支援課でキャッチした生活困窮に関する相談(ニーズ)事例には次のような特徴があるそうです。

〇「とにかく東京の中心部に行けば職がある」との思いから外部・地方より中央区に転住したが、職だけでなく住居も見つけられずホームレスになっているケース。
〇結果的に50台男性(単身者)の事例が多い。女性の場合は、何らかの地域ネットワークを持っているケースが多く、それらがセーフティーネットになっている。男性単身者には、日常の些細な情報の相談者がいないケースが多い。
〇オリンピック・パラリンピックの景気上昇も手伝って、都心の再開発が増えており、従前の古い家屋・集合住宅に住んでいた高齢者や生活困窮者の住まいや居場所が失われている。直ぐに転住先が見つかれば良いが、居所を見つけられないでいるケースが増えている。

以上の通り今回は、グレーゾーンと言われる生活困窮者を支援する制度実施の事例のお話を伺いました。決して大げさでな事ではなく、日常から各専門者とのネットワークを作っている様な小さい事が、社会が抱える問題の解決へのサポートに繋がると実感致しました。
今後も引き続き生活支援と住まいの課題に触れていきたいところです。

 

みんなで「働きやすく、住みやすい、誰でも笑顔になれる中央区」にしませんか?

(文責:広報委員会)