今年の3月で東日本大震災から5年の月日が経過しました。復興は、次のステージへ向かう動きが見え始めています。広報委員会での東日本大震災被災地取材業が6年目を経過した今回は、初めて福島県での取材訪問となりました。

ご承知のように、福島県では原発被害の問題も大きく、他の地域とは異なった復興の道のりを歩んでいる途中です。今回は、そんな福島の今と地元の不動産を取巻く環境について、福島県本部の皆さまのご協力を得てお話しを伺って参りました。

□ご協力頂いた方
【公益社団法人全日本不動産協会福島県本部】
●所在:福島県郡山市南1丁目45番地 TEL (024)939-7715
●訪問日:平成28年12月14日(水)

〇本部長 久保田 善九郎 様
〇副本部長 木原 悟 様
〇理事・広報委員長 矢吹 匠 様
〇広報委員 深谷 壽夫 様
〇広報委員 圓谷 都志 様
【リンク】公益社団法人全日本不動産協会福島県本部ホームページ

 取材中風景(小)

【福島県本部2階応接室にてお話しをお聞きしました】

■福島県の東日本大震災被害状況(福島県災害対策本部資料より)

福島県では、地震・津波により被災された方、原発事故に伴う避難区域の設定により避難を余儀なくされた方など、未だ多くの方々が県内外で避難生活を続けています。
(避難者数の推移: 164,865人(ピーク時、平成24年5月) –> 84,289人(平成28年11月))

福島県では、こうした長期にわたって避難されている方や早期にふるさとへ帰還される方など、それぞれの状況に応じた様々な支援、取組を実施しております。また、福島県災害対策本部では、定期的に震災被害~復興状況を随時公表しております。そのうち主な項目について下記の通り纏めてみました。

 【被害状況即報 (福島県災害対策本部 第1672報/平成28年12月12日現在 より)】

●避難の状況・・・◎詳細別記

県内への避難者数 42,735
県外への避難者数 40,245
避難先不明者 20人
【合計】 83,000人

●被害の状況

人的被害 死者 3,928人
行方不明者 3人
重傷者 20人
軽傷者 163人
住家・非住家被害 住家 全壊 15,194棟
同 半壊 79,597棟
同 一部破壊 141,252棟
同 床上浸水 1,061棟
同 床下浸水 351棟
非住家 公共建物 1,010棟
同 その他 36,755棟

●その他

鉄道 常磐線 竜田~小高間運転見合わせ
道路 国道6号線 全線通行可
高速道路 平成24年6月8日付けで全線通行可
ライフライン 停電 浜通りの一部(帰宅困難区域内)12,626戸
水道 津波被害地域等18,258戸で断水

◎県内避難者の居所状況

仮設住宅 13,753人
借上げ住宅(一般) 777人
借上げ住宅(特例)※1 23,969人
公営住宅※2 465人
雇用促進住宅・公務員宿舎等※3 1,537人
親戚・知人宅等※4 2,234人

(*1)特例とは、自ら県内の民間賃貸住宅に入居した避難住民の賃貸借契約を県との契約に切り替え、県借上げ住宅とする特例措置
(*2)公営住宅(169戸465人:県営住宅63戸170人・市町村営住宅106戸295人)をいう。
(*3)生活拠点課で集計したものである。
(*4)親戚・知人宅、施設・病院、県の借上げでない住宅、社宅等への避難者数。(災害対策本部総括班で集計したものである。)

◎県外避難者の居所状況

仮住宅等(公営・仮説・民間賃貸等) 27,891人
親戚・知人宅等 12,123人
病院等 231人

◎県外避難者の居所(地域)状況・・・上位5地域を抽出

①東京都 5,269人
②埼玉県 4,140人
③茨木県 3,730人
④新潟県 3,184人
⑤神奈川県 2,888人

■ 原発事故による影響・避難指示区域の現状

福島県における震災復興の最大のキーワードとなっているものが原発事故による放射能対策(線量モニタリング・除染・福島第一原発の監視強化等)です。
福島県は、国と東京電力の廃炉への取組みが安全・着実に進むよう、立入調査や会議などにより取組状況を厳しく確認しています。また、福島第一原子力発電所においては、国と東京電力が示した中長期ロードマップに基づいて、廃炉への作業が行われております。
【リンク】福島県復興・総合計画課「ふくしま復興ステーション」原発関連ページ
また東日本大震災では、福島第一原子力発電所の事故により、原子炉の損傷や放射性物質の放出・拡散による住民の生命・身体の危険を回避するために、国が原発事故直後から避難指示を発出しました。その後、事故の深刻化に伴い徐々に避難指示区域が拡大されていきました。
しかし、その後の対策等を通じた成果・協議を重ね、国は平成27年の6月に「帰還困難区域を除いた」区域の避難指示を平成29年3月までに解除する方針を示しました。

避難指示区域の概念図_(小)

【平成28年7月時点での避難指示区域】(福島県復興・総合計画課「ふくしま復興ステーション」避難指示区域の状況 資料より)

 ■東日本大震災後の福島県不動産市場動向に関するアンケート調査結果

公益社団法人福島県不動産鑑定士協会(調査研究委員会)では、東日本大震災及び東京電力福島第1原発の事故後における不動産市場変動を捉えるべく実施した「東日本大震災後の不動産市場動向に関するアンケート」の調査行い結果を発表しております。
この調査は、公益社団法人福島県宅地建物取引業協会、又は公益社団法人全日本不動産協会福島県本部の何れかに加盟する不動産取引業者(※)を対象にしたアンケート調査となっています。調査の手法は、市場動向の意思を指数化したDI(ディフュージョン・インデックス)を採用しており、定性的な回答結果を「見える化」した分かり易いものとなっております。
【調査概要】
○調査機関:公益社団法人福島県不動産鑑定士協会調査研究員会
○名称:「東日本大震災後の福島県不動産市場動向に関するアンケート調査」第13回調査(平成28年10月1日時点)/平成28年12月 公表
○目的:この調査は福島県内における震災後の不動産売買等の市場変動を捉え、不動産取引市場の活性化、今後の復興施策への反映等に役立てることを目的とする。
○実施期間:平成28年10月~11月
○調査方法:前述の対象者(※)へ郵送又はFAX等によりアンケートを送付
○発送数:679社(回収数:142社・回収率:20.9%)
【調査結果概要】(回答は全て福島県全体を採用)

●不動産売買の成約価格について
(1)土地(住宅地)に関して

①成約価格について(H28年4月対比) ②成約価格について(今後半年~1年間)
大きく下落した 0.8% 大きく下落する 3.1%
下落した 21.4% 下落する 43.0%
ほぼ同じ 66.7% ほぼ同じ 50.8%
上昇した 10.3% 上昇する 3.1%
大きく上昇した 0.8% 大きく上昇する 0%

(2)土地(商業地)に関して

①成約価格について(H28年4月対比) ②成約価格について(今後半年~1年間)
大きく下落した 1.1% 大きく下落する 2.8%
下落した 21.1% 下落する 42.5%
ほぼ同じ 70.0% ほぼ同じ 50.9%
上昇した 7.8% 上昇する 3.8%
大きく上昇した 0% 大きく上昇する 0%

(3)中古戸建に関して

①成約価格について(H28年4月対比) ②成約価格について(今後半年~1年間)
大きく下落した 5.6% 大きく下落する 6.1%
下落した 28.0% 下落する 50.9%
ほぼ同じ 54.2% ほぼ同じ 41.2%
上昇した 12.1% 上昇する 1.8%
大きく上昇した 0% 大きく上昇する 0%

(4)中古マンションに関して

①成約価格について(H28年4月対比) ②成約価格について(今後半年~1年間)
大きく下落した 1.3% 大きく下落する 4.2%
下落した 28.6% 下落する 49.5%
ほぼ同じ 55.8% ほぼ同じ 41.1%
上昇した 14.3% 上昇する 5.3%
大きく上昇した 0% 大きく上昇する 0%

●不動産市場に関する動向について
<会津>

・震災バブルも一服し、人口減少の歯止めが出来なければ上昇するファクターが見つからない。
・被災者の住宅購入需要に変化が見られる。
・空き家の増加、復興需要の終息。
・被災者がいわき方面へ帰る人が多くなり、下落傾向にある。

<県北>

・今月(9月)連休後より中古住宅、新築建売住宅が鈍化してきた。又、建売住宅3,000万円以上の動きが特に悪い。被災者の引合いが、問い合わせが少なくなってきた。以前に戻りつつあるようだ。
・被災者の需要が少なくなった。
・震災被災者の成約件数の減少。
・更地取引の購入意欲は変化が少なく、高い状態にあるが、高額の中古・新築の購入意欲は低下している。

<県中>

・若い世代、30代の方が土地を探している。
・土地が少ないのでしばらく高値安定だが、土地以外はすべて下落すると思う。
・少し落ち着いた。戸建ての賃貸希望が増えたと思われる。
・被災者の売買が止まった。ただ、来年3月近くに動きがあるような。

<県南>

・被災者需要は減少している(売買・賃貸ともに)ように感じる。畑や遊休地を利用したアパートの新築がこの所多い気がする。
・被災者の方の購入需要で一時的に上昇が見られたが、もうすぐ落ち着くと思う。若い世代の購入意欲はあまり変化が無い。
・被災者の土地及び建築が停滞してきた。
・低価格で売買の動きがあり、町の中心地(住宅)の求めがでている。

<相双>

・従来に比べ土地の問い合わせが少なくなった。
・問合せは減少してきた。
・被災者の需要が落ち着き、若い世代の購入者が若干増えた。
・被災者の住宅購入は減少してきたと思われる。
・県外資本の引合いはあるが、助成金がもらえればという条件付である。

<いわき>

・原発被災者からの問い合わせがほとんど無い。地元の若い世代の動きが増えている。
・中古住宅の値落ちが大きい。問い合わせの減少がひどい。
・被災の方々の動きはほとんど見られなくなってきている。若い世代が建物を求めている。
・被災者の住宅地購入は落ち着いてきて、若い世代の購入のみとなってきた。

●「マイナス金利政策」の影響について

アンケートの結果、マイナス金利政策の影響について、不動産市場への影響が見られると回答したのは全体の23.2%で、同56.3%は殆ど影響ないとの回答になった。マイナス金利政策の導入効果による不動産市場の活性化が取り沙汰されているが、福島県においても一定程度の影響が波及しつつある様子が伺える。≪コメント抜粋/影響なし関連≫
・県内に本店のある銀行の基本体質が変わっていない。
・消費税の方が注目されている様に感じる。
・金利が下がったが、それが意欲向上にはなっていないと思う。

≪コメント抜粋/影響あり関連≫
・住宅ローンが活発になった。
・借入金利が下落。
・住宅ローンの金利が安くなった。

■福島県本部の方々へのインタビュー(地元の実務者として感じている事・エピソード等)

インタビューの冒頭、久保田本部長から今年の全国大会(全国不動産会議宮城県大会/平成28年10月20日開催・於仙台市の江陽グランドホテル)のあった今年10月に、内閣府の許可を得て原発事故のあった大熊町の現地調査に行かれた際のエピソードを教えて頂きました。こちらは、現在でも帰宅困難区域に指定されており一般の方は立入禁止のエリアです。震災後もうすぐ6年を越えようとしている今ですが、皆さんからお話を聞かせて頂いた感想は「まだ復旧段階で復興を実感するまでは先が長い」という事でした。

今回伺ったコメントを下記の通り、ジャンル別に列記しました。

●原発事故の影響等について

・福島県における震災被害は「地震」「津波」「放射能」「風評」の4つがあり、他の被災地域と比べ深刻である。
・10月に内閣府の許可を得て、相双地区の立入禁止区域へ入ったが、手付かずの傾いたままの建物あったり、動物のフン等が道路上に放置されたりしていた。
・震災のあった日は、例年と風の流れ(向き)が変わっており、その結果県内の内陸部への深刻な被害となった。
・自治体では、現在も毎日ガイガーカウンターを使い放射線量のスクリーニング及び測定値の公表を行っている。
・震災発生直後は、外出を避け家屋の通気口を塞ぐよう行政から指示が出されたが、どの様な事実があったのかわからなかった。その後、安定ヨウ素剤が家庭に配られた時に事の重大さを実感した。
・国の原発政策の転換(キッパリ稼働を取止める)が必要だと考えるが、未だに海外へ原発機能を売り込んでいる様では、方針の軸がぶれている。
・震災後に設立された廃炉支援機構に原発を譲渡し、それらが賠償と施設除却までの業務を受持ち、東電は電気事業の運営に特化したシンプルな形にしないと、原発問題・賠償問題の解決にはさらなる時間を要する。

●復興の状況について

・福島では、未だ復興前の復旧作業の最中との認識である。
・避難指示が解除された地域に帰宅する事例が出始めている。しかし、家族の中でも主人だけが帰宅し、妻子供はそのまま避難先に留まる家族分離の生活をしているケースが多い。特に、子供は避難先のコミュニティに溶け込んでいるので、今更そこを離れる事ができない。
・首都圏で福島から避難してきた子供がいじめられているニュースを知った時は残念だった。
・帰宅困難区域に暮らしていた人には、既に生活保障名目で毎月多額の保証金が支払われてきた。今後、復興を本格化するための抜本的な予算編成は容易ではない。
・「除染」と「常磐線の全線開通」が復興の旗印となるだろう。常磐線の相馬駅~浜吉田駅間が今月上旬に運転再開された。しかし、南側の原発付近の区間再開までは、まだ時間がかかる。
・いわき市の薄磯海岸に建立されていた塩屋埼灯台は甚大な震災の被害を受けたが、H24年に復旧工事が完了し、再稼働している。ここを舞台とした美空ひばりさんの名曲「みだれ髪」の歌碑も設置されている。

●福島県本部が見る不動産事業を取巻く環境について

・いわき市内でも、被害の大きかった沿岸部から調整区域の指定を解除して山あいの高台地区への移転を目的とした住宅開発がなされている。しかし、これまで平地で生活の便が良かった地域に住んでいた人達にとって高台地区は未だ不便な地域であり、移住は進んでいない。
・福島県の全体図を見ればわかる通り、県域は東西に非常に広く、それぞれ文化・風土・気候が全く異なる。当初、沿岸部(浜通り地区)から会津地方へ県内避難してきた人達が、その気候に馴染めず(特に厳しい冬場の環境)、元居た所へ戻るケースも少なくなかった。
・いわき地域では、震災後不動産価格が上昇した。最近では首都圏大手の住宅開発会社が分譲現場を増やしており、(こちらの感覚で言うと)だいぶ高値で販売している。しかし、所謂震災バブルもピークを越えており、販売は伸びていない。
・福島の不動産業界の復興は、震災被害からの復興云々以前に、少子高齢化の国の全体的な問題が解消されない限り、実現できない。国家として少子化を止める施策を講じないと問題の解決は達成できないと考えている。

■福島県本部として行っている地域支援活動・地域交流について

●「福島復興心理・教育臨床センター」との協働事業
福島県本部では、国際基督教大学准教授・橋本和典氏(福島県須賀川市出身)が所長を務める福島復興心理・教育臨床センターとの協働事業として、「震災・原発問題によるPTSDの個別相談、PTSD対応心理療法事業」の支援を行っています。
具体的な支援内容は、同センターの本部機能を福島県本部内に置き、同センターの行う相談支援ルーム及び市民向けセミナーの会場を無償で供与しております。
【リンク】福島復興心理・教育臨床センター ホームページ

●女性委員会の活動
福島県本部内は女性員会を設置しており、定例会にて実務セミナーやカルチャースクール等も実施しており、今では当たり前となっているダイバーシティ(女性の社会活躍)の実現に一早く着手しております。

●その他地域活動支援
福島県本部では、その他地域活動の支援として「Kボール(日本KWB野球連盟)」の支援を実施しております。Kボールとは、重さ・大きさは硬球と同じくした軟式野球の事です。Kボール出身のNPBプロ野球選手も沢山おり、地元の活性化の一翼を担っています。
また、福島県本部の会館を希望する市民団体の活動に貸出す事業も行っており、前述の福島復興心理・教育臨床センターの活動支援と同様に、市民活動の推進にも寄与しております。これは、会館を福島県本部が自己所有している故、支援がスムーズに実施できる賜物と言えます。

□おわりに

今回取材では、東日本大震災の復興状況をテーマとして初めて福島県を訪れました。福島県では8万人もの方々が自宅を失い、未だに自宅外で避難生活を送っています。また、宮城県や岩手県と違い、福島県の場合は原発事故の被害及びそれに起因する農林水産業の風評被害も甚大です。
真の復興までは、未だ相当な時間を要すると思われますが、一歩一歩着実に進展していることも実感しました。先に記載した通り、東京都でも5,000人を超える方が避難生活を送っています。福島県を訪れること以外にも、我々の日常生活の中で支援できることは沢山あります。福島県の復興一日でも早く実現できることを祈念しつつ、微力でも復興支援に寄与できる様活動を続けて行ければ幸いです。

 ●福島県本部広報誌「全日ふくしま(最新号)」

 小④

小②

小③

小①

小⑤

 

(文責:広報委員会)