今回は、一昨年の年末に訪れて以来でしたが、中央区福祉保健部生活支援課を訪問して、前回情報頂いた「生活困窮者自立支援制度」のその後の運用状況やその他行われている主な業務についてお話を伺って参りました。
住居確保やその他就労支援を始めとした生活支援の施策は、日本社会の環境が変化している中で、区民生活にとっても重要な役割を担っています。
【ご協力頂いた方】
〇生活支援課長 阿部 志穂 様
〇生活支援課相談調整係長 近藤 容子 様
〇生活支援課相談調整係 岩倉 弘樹 様
【取材場所】
〇中央区福祉保健部生活支援課(東京都中央区築地1-1-1 4階)
【訪問日時】
〇平成30年5月23日(水)
■生活支援課の役割
今回お話を伺った生活支援課には、生活保護費の金銭支給等を主に行う地域福祉係と、生活保護に関する相談調整やホームレスの相談援護他を中心に行う相談調整係、生活保護に関する個別援護等を行う生活福祉担当係長といった係があります。
前回訪問した時と同じく、生活困窮者自立支援制度利用に関する相談支援は、相談調整係が担当し、良く知られた生活保護制度に関する支援とは別に、同じセクションが並行して行っているため、かなり忙しく対応されています。
■生活困窮者自立支援制度とは?
生活困窮者自立支援制度とは、平成27年4月からスタートした制度です。
これについて厚生労働省では、「生活全般にわたるお困りごとの相談窓口が全国に設置されます」と謳っており、生活保護に至っていない生活困窮者に対する「第2のセーフティネット」として、これまで専門の窓口で個々に抱えていた個別ニーズを包括的に支援することが特徴の制度です。
この制度に位置付けられた各種支援を実施することによって、生活保護に至らない、及び生活保護から脱却した人が再び生活保護に頼ることの無いようにすることが狙いです。この中でも「就労支援」と「居住の安定化(住居の確保)」は大きな柱となっています。(*データ出所:厚生労働省社会・援護局地域福祉課生活困窮者自立支援室 資料より)
〇この制度の対象者
・現在生活保護を受給していないが、生活保護に至る可能性のある者で、自立が見込まれる者。
〇制度施行の背景
・福祉事務所来訪者のうち生活保護に至らない者が年間約40万人(H23年度推計値)おり、これらの人々の実態把握・生活支援が生活保護防止の最善策と考えられています。
・生活困窮者の増加
(1)非正規雇用労働者の増加:平成12年 26.0%→平成25年 36.7%
(2)年収200万円以下の給与所得者の増加:平成12年 18.4%→平成25年 24.1%
(3)高校中退者:約6万人(平成25年度)
(4)中高不登校:約15.1万人(平成25年度)
(5)ニート:約60万人(平成25年度)
(6)引きこもり:約26万世帯(平成18年調査の推計値)
(7)生活保護世帯のうち約25%(母子世帯においては約41%)の世帯主が出身世帯も生活保護を受給
(8)大卒者の貧困率が7.7%であるのに対し高卒者では14.7%高校中退者を含む中卒者では28.2%
〇これまでの支援
・自治体とハローワークが一体となった就労支援
・民間団体と連携した自治体独自の多様な就労支援
・居住の確保:住宅支援給付(平成26年度までの時限措置)
・貸付・家計相談
・子ども・若者への学習支援/養育支援/居場所づくり/就労支援:地域若者サポートステーションによる就労支援(平成18年度から実施)
➡以上のこれら施策に対して下記の課題が指摘されてきました・・・
●一部の自治体のみの実施
●各分野をバラバラに実施
●早期に支援につなぐ仕組みが欠如
これら課題を解消して実のある支援策を実施すべく、生活困窮者自立支援制度が創設されました。
【リンク】生活困窮者自立支援制度紹介のホームページ(厚生労働省)
■生活困窮者自立支援の中身
前述の通り、就労支援と居住の安定化が支援の重要な要素となっており、支援策の一つにある「住居確保給付金」の利用にあたっては、常用就職に向けての求職活動を行う前提が課せられています。
また、この制度はあくまで本人の自立支援を促すものですので、生活保護の様な金銭給付ではなく、相談支援(相談対応)が中心であり、その分マンパワーと地域連携が必要不可欠となります。
制度の運用は、自治体が一部自由に決めるとされており(地域ニーズが各所異なるため)、メニューの中身には地域差が出て来ると見られています。支援の実施は、地域連携の下、社会福祉法人・NPO・その他民間法人等に委託して実施することもできます。
①就労支援
・就労準備支援事業(一般就労に向けた各種訓練)
・中間就労支援(直ちに一般就労が困難な者に対する支援付きの就労の場の育成)
・生活保護受給者等就労自立促進事業(一般就労向けた自治体。ハローワーク一体の支援)
②居住確保支援
・住居確保給付金の支給(就職活動を支えるための家賃相当額を有期で給付)
③緊急的支援
・一時生活支援事業(住宅喪失者に対し一定期間衣食住の必要な日常生活を支援)
④家計再建支援
・家計相談支援事業(家計状況を「見える化」し利用者の家計管理の意欲を引き出す相談支援)
⑤子供支援
・子どもの学習支援事業(生活保護世帯のこどもを含む生活困窮世帯の子どもに対する学習支援)
⑥その他支援
・民生委員・自治体・ボランティアなどのインフォーマルな支援
■制度の施行から現在までの状況は?
生活困窮者自立支援制度の制度施行から3年目を迎えていますが、認知度が上がり、中央区での利用者数は増加しています(生活保護と合わせて年間延べ約1,400件の相談)。ここ数年は、来庁される方のニーズでは「家計相談」をからめた支援が増えています。担当職員の方が、連携する東京都の機関(東京都生活再生相談窓口)へ同行なども行い家計の再建を図っています。
一方、区内の路上生活者に関しては減少傾向にあります。確認している路上生活者は数年前の100人超から、昨年度では約40人程度まで減少しています。これは、相対的貧困率の低下と合わせて、国や自治体主導の各種自立支援に関する施策の効果や、景気回復基調の環境要因などの影響が考えられます。
■制度別に組織を分けない支援の効果(既存の生活保護制度との共有)
中央区における生活支援(生活困窮者・生活保護世帯)の特徴として、困窮者か要保護世帯かで組織を分けずに支援を行っている点が挙げられます。つまり、相談調整係が「生活困窮者に対する自立支援プログラムの実施」と「要保護世帯に対する各種扶助支給・保護の実施への引継ぎ」の両方を受け持っています。
市区町村によっては、組織を制度ごとに区分している自治体も有るようですが、中央区では制度による区分は行っていません。
区分の概念は、制度を運用する立場から見た考え方であり、支援を必要とする方の生活背景によっては、必ずしも2つに分けられないケースも多々あります。その様な幅の広い対応が必要な実態に則するために、機械的な区分は行わない体制を取っていますので、担当職員の方のノウハウの蓄積が求められています。
■地域との連携
生活支援課では、日頃から地域の専門機関やボランティアなどのリソースとの連携・協働を行っています。
平成27年の生活困窮者自立支援制度のスタート時には、民生・児童委員の方との勉強会を開催しました。その後もさまざまな機会を捉えて制度のご案内をしています。
その他、学習支援として、区内のNPO法人キッズドアの運営委託による学習会(於中央区教育センターなど)の継続実施も行っています。
みんなで「働きやすく、住みやすい、誰でも笑顔になれる中央区」にしませんか?
(文責:広報公益委員会)