今回は、家族介護者による高齢者虐待の防止や、地域の関係者などに対する介護の在り方について普及啓発活動行う「NPO法人となりのかいご」が主催する高齢者支援の勉強会に参会した際の模様をお伝えします。
講義内容では、孤立する高齢者の現状をおさえ、支援の手がない高齢者を事故や犯罪に巻き込まれることを防止するためのツールとして、法律家による身近なリーガルサービスの使い方のお話がありました。
【ご協力頂いた方】
○NPO法人となりのかいご 代表理事 川内潤 様
○NPO法人となりのかいご 理事 川崎裕彰 様
○文京社会福祉士会会長 弁護士 武長信亮 様
【取材場所】
○株式会社東京在宅サービス3階会議室(東京都新宿区新宿1-5-4 YKBマイクガーデン)
【訪問日時】
○令和4年5月11日(水)19:00~21:00
■「NPO法人となりのかいご」の概要
○名称:NPO法人となりのかいご
○設立:2008年10月(2014年10月NPO法人格取得)
○代表理事:川内潤 氏
○本部所在地:神奈川県伊勢原市東大竹二丁目8番地の12
○団体理念:
【ビジョン】誰もが最期まで家族と自然に過ごせる社会
【ミッション】50万通りの親孝行を一緒に考え、家族の幸せな時間をつくる
○解決を目指す社会課題:介護者による家族虐待の防止
○事業内容:介護支援コンサルティング/普及啓発・セミナー運営
■50万通りの「となりのかいご」
NPO法人となりのかいごでは、法人が掲げるミッションに標榜するように、50万通りの家族孝行を一緒に考え「誰もが最期まで家族と自然に過ごせる社会」の実現に取り組んでいきます。これまでNPO法人となりのかいごが携わった素敵な介護のストーリーを、ホームページなどで紹介しています。
■高齢者虐待の現状
●高齢者高齢者虐待判断件数等
厚生労働省が公表した(「令和2年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果)の調査結果によると、高齢者虐待と認められた件数は、養介護施設従事者等(*¹)によるものが令和2年度で595件であり、前年度より49件(7.6%)減少したのに対し、養護者(*²)によるものは17,281件であり、前年度より353件(2.1%)増加しました。
●養護者(*²)による高齢者虐待の虐待内容
同じ調査で養護者による虐待において特定された被虐待高齢者17,778人のうち、虐待の種別では「身体的虐待」が12,128人(68.2%)で最も多く、次いで「心理的虐待」が7,362
人(41.4%)、「介護等放棄」が3,319人(18.7%)、「経済的虐待」が2,588人(14.6%)
の結果でした。
*¹ 介護老人福祉施設など養介護施設又は居宅サービス事業など養介護事業の業務に従事する者 *² 高齢者の世話をしている家族、親族、同居人等
【図】 虐待の種別の割合(出典:厚生労働省令和2年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果)
■「おひとり様」高齢者支援のためのリーガルサービス
当日は、現職のソーシャルワーカーをはじめその他高齢者支援を行う専門職の方々向けの実務勉強会として開催されました。
講義内容は、社会環境や世帯構成の変化で、「おひとり様」である独居高齢者や夫婦世帯であっても、地域とつながりを欠く「孤立高齢者」の現状と、その方々が抱える課題を分析し、法律家が手の届く形でより添うリーガルサービスの事例紹介でした。
●孤立する高齢者の現状
令和元年度国民生活基礎調査によると、全世帯に占める「65歳以上の高齢者がいる世帯」の割合は49.4%にのぼり、さらにその内「おひとり様(単独世帯)」は28.8%の結果となっています。
また、高齢者の消費者トラブル・被害は、各世代の中で70代以上が多くなっています。
*データ諸元:2017年度消費生活センター等に寄せられた消費相談の件数を元に講師が調査
これに関し、おひとり様をターゲットとするビジネスの増加とそれに伴う消費者被害が社会問題となっています。このことから、専門職による公正で適切な財産管理が求められています。
●課題対応の選択肢としてのリーガルサービス
支援が必要な高齢者のための公的なリーガルサービスとして、先ずあげられるのは、民法改正にて2000年4月に施行された成年後見制度(法定後見制度・任意後見制度)があります。
この制度は、精神上の障害によって、意思決定能力が十分でない方について、権利を守る援助者(成年後見人)を選ぶことで、法律的に支援する制度です。
(1)法定後見制度
【表】法定後見制度の棲み分け *データ諸元:法務省webサイトを基に作成
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後見 |
保佐 |
補助 |
対象となる方 |
判断能力が欠けているのが通常の状態の方 |
判断能力が著しく不十分な方 |
判断能力が不十分な方 |
申立てをすることができる方 |
本人,配偶者,四親等内の親族,検察官,市町村長など(注1) |
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成年後見人等の同意が必要な行為 |
(注2) |
民法13条1項所定の行為(注3)(注4)(注5) |
申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(民法13条1項所定の行為の一部)(注1)(注3)(注5) |
取消しが可能な行為 |
日常生活に関する行為以外の行為(注2) |
同上(注3)(注4)(注5) |
同上(注3)(注5) |
(注1)本人以外の方の申立てにより,保佐人に代理権を与える審判をする場合,本人の同意が必要になります。補助開始の審判や補助人に同意権・代理権を与える審判をする場合も同じです。
(注2)成年被後見人が契約等の法律行為(日常生活に関する行為を除きます。)をした場合には,仮に成年後見人の同意があったとしても,後で取り消すことができます。
(注3)民法13条1項では,借金,訴訟行為,相続の承認・放棄,新築・改築・増築などの行為が挙げられています。
(注4)家庭裁判所の審判により,民法13条1項所定の行為以外についても,同意権・取消権の範囲とすることができます。
(注5)日用品の購入など日常生活に関する行為は除かれます。
(2)任意後見制度
本人に判断能力があるうちに、契約により実施する制度です。公正証書で契約を締結しますが、法律効果は、将来本人の判断能力が低下し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときから生じます。ただし、法定後見制度のような取消権はありません。
(3)財産管理契約
成年後見制度を補完する任意の契約によるリーガルサービスとして、諸湯する財産の管理や、生活上の事務・生活支援サービスの利用支援を行うことを目的としたものです。これは、当事者間の合意で効力が生じ、必ずしも公正証書で締結する必要はありません。
(4)死後事務委任契約
「任意後見制度」「財産管理契約」は、本人の死亡により効力が消滅します。このため、本人の死亡後に必要な各種事務(自治体への手続・葬儀埋葬納骨等)に対し、第三者へ代理権を与えることを目的とした生前契約です。当事者間の合意で効力が生じ、必ずしも公正証書で締結する必要はありませんが、公正証書で契約書を作成することが望ましいです。
●リーガルサービス提供のために留意していること
リーガルサービスの実施にあたり本人の意向を適切に反映したサービス提供にあたって留意している点は次の通りです。
(1)トラブルを予測するための想像力をはたらかせる。 (2)本人のこれまでの生活歴を把握する。 (3)本人の日常生活を知る。 (4)本人への支援者との繋がりを確保する。 (5)地域の福祉機関との関係性を構築する。 (6)事務所におけるサービス提供体制を確立する。 |
■ホームロイヤーは「かかりつけ弁護士」
武長さんが長年実践しているホームロイヤー契約とは、個人等の依頼者が弁護士と顧問・見守り契約を締結し、継続的な弁護士とのかかわりを継続するサービス内容です。
係争事案などの訴訟代理人として弁護士を選任する場合には、高額な費用が発生するため、一般的な個人では弁護士へ相談する機会は多くありません。
このような課題を解決するために、個人と弁護士との垣根を低くしたホームロイヤー契約では、相談支援のテーマを軽減し、実施する支援を単純化することで弁護士報酬を抑え、個人でも気軽に弁護士へ相談業務を依頼できるようにしています。
そこが「かかりつけ弁護士」と呼ばれる所以です。
(文責:広報公益委員会)