■住宅・不動産市場の現状
2014年の住宅・不動産市場は、低金利や景況感の改善といったプラスの要因がある一方で、消費税率引き上げによる駆け込み需要の反動減の影響といったマイナスの要因もある等、大きく変化しました。
これまで下落傾向が続いている地価については、全国平均では依然として下落しているものの、下落率の縮小傾向が継続し、上昇地点も増加しています。特に三大都市圏の平均では、住宅地、商業地ともに上昇に転換しました。また、三大都市圏及び地方中心都市等を対象にした地価LOOKレポートでは、昨年第3四半期の地価が全地点で上昇または横ばいとなり、下落地点数がゼロになるなど、地価の回復傾向が見られます。
その一方で、住宅着工戸数については昨年1月から10月までの合計が73.7万戸と、前年同期比で7.7%の減少となりましたが、駆け込み需要発生前の2012年の同期比で見ると1.5%増となっています。
■改正宅地建物取引業法の施行にむけて
昨年6月に、「宅地建物取引主任者」を「宅地建物取引士」に改称すること等を内容とする宅地建物取引業法改正が議員立法の形で成立し、本年4月1日から施行されることとなりました。
宅地建物取引主任者が行う重要事項説明の内容が年々増加するなど、取引に関する法律や関連制度が近年多様さを増しており、安全な取引のために宅地建物取引主任者が果たすべき責任が大きくなっています。また、中古住宅の円滑な流通のための関係事業者との連携など、重要事項説明以外にも主任者が責任を持って取り組むべき業務も増えています。
これらを踏まえ、宅地建物取引主任者の名称を宅地建物取引士に改称するとともに、宅地建物取引士の公正・誠実な業務遂行を定める業務原則の明文化、宅地建物取引士の信用または品位を害する行為の禁止、宅地建物取引業者(以下、宅建業者)による従業員教育の努力義務などが新たに規定されました。さらに大臣告示事項である法定講習の内容についても、宅地建物取引士にふさわしい資質の維持向上を図る観点から、より充実させることとしています。
■中古住宅流通市場の活性化
我が国には官民合わせて2,410兆円の不動産資産があります。今後、我が国は、人口・世帯数の減少や高齢化の急速な進展といった社会経済の大きな変化を迎えることになりますが、このような不動産資産を有効に活用し、ストック活用型の経済成長を実現することが重要です。中でも、800万戸以上の空き家を抱える住宅市場について、中古住宅流通の活性化を図り、高齢者等の持ち家資産の資金化・資産価値増大を進めることは、高齢者のみならず、所得が伸び悩む若年層も含めた住み替えを促進し、ライフステージに応じたより豊かな住生活の実現につながると考えられます。
まず、木造一戸建てであれば築後20年程度で建物の価値がゼロと評価されてしまう慣行を改めるべく、昨年3月に「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針(※1)」を公表いたしました。この新たな指針の考え方を市場に普及・定着させるため、現在、(公財)不動産流通近代化センターにおいて価格査定マニュアルの改訂作業を行っています。また、不動産鑑定評価についても、建物の現況を適切に反映した中古住宅等の評価方法の確立に向けて検討を行っています。さらに、中古住宅流通に携わる民間事業者等と、金融機関等が自由に意見交換を行う「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル(※2)」を2013年9月から2ヶ年にわたって開催しており、建物評価の見直しも大きなテーマとなっております。
次に、市場への情報提供システムの整備です。宅建業者が、物件の購入を検討する消費者に対し、必要な情報を適時適切に提供できるよう、過去の取引価格や周辺の取引事例、災害リスク・法令制限に関する情報等、市場に分散している不動産取引に必要な情報を効率的に集約・管理する情報システムの整備に向けた検討を進めているところです。2015年度には横浜市の物件を対象に試行運用を実施し、システム導入による効果・課題の検証を行うとともに、全国展開に向けた検討を行う予定です。(※3)
また、2012年度から、宅建業者及び関連事業者が連携して中古住宅を円滑に流通させるための協議会活動を支援しており、全国各地でワンストップのサービス提供モデルの構築が進められているところです。本年度はさらに、連携体制を活かして消費者に充実した情報提供を行う先進的取り組みをモデル事業として支援(※4)し、消費者が安心して中古住宅の取引ができる環境の整備を目指しています。
■マンション管理及び賃貸住宅管理に関する課題への対応
国内の区分所有マンションの戸数が600万戸を超え、我が国の重要な社会的資産となっている中で、マンションの適正な維持管理は一層重要な課題となっています。特に、築30年以上のマンションは120万戸を数え、経年劣化が進むとともに、居住者の高齢化等から管理組合が十分に機能しないマンションも相当数存在し、管理上の大きな課題となっています。区分所有マンションの約9割はマンション管理業者によって管理されており、マンションの適切な維持管理や価値の維持保全を行う上でマンション管理業者が果たすべき役割は非常に重要です。
日々の管理や大規模修繕等を適宜適切に行い、マンションの居住環境を高め、その資産価値を維持向上させていくためには、各々の区分所有者が自らのマンションの状況を把握して必要な修繕等を進めていく必要があり、その判断の基となる管理に関する情報の整備が必要不可欠です。中古マンションの購入に当たっても、マンションの状況が十分に分からなければ安心して購入できず、入居後のトラブルに繋がることも懸念され、中古マンション流通の促進の観点からも、購入希望者への管理情報の迅速な開示・提供は重要な課題です。
国土交通省としては、このようなマンション管理情報が持つ役割・効果を踏まえ、管理情報がそれぞれのマンションにおいて、主体的に整備・提供されるよう、必要な環境を整えていくための施策を進めてまいります。
賃貸住宅の適切な管理・運営も大きな課題です。民間賃貸住宅は住宅ストックの4分の1以上を占め、さらに約8割のオーナーが賃貸住宅管理業者に管理業務を委託するなど、賃貸住宅管理業の社会的責務は大変大きいものと認識しております。
国土交通省では、賃貸住宅管理業の適正化を図り、借主等の利益の保護に資するため、国土交通省告示による賃貸住宅管理業者登録制度を2011年12月から施行しております。
本制度の施行から約3年が経過し、登録業者数は3,400業者を超えてきておりますが、さらなる普及を促進していくため、その効果や課題等について検証を行うとともに、検証結果を踏まえ、必要に応じた制度の見直しを含め、登録制度の普及を促進するための方策を検討するなど、賃貸住宅管理業の適正化に向けた取り組みを推進してまいります。
■不動産業のコンプライアンス体制確立に向けた取り組み
2013年4月に改正された犯罪収益移転防止法では、より詳細な取引時確認の実施等、マネー・ローンダリング防止のための対策が新たに講じられました。これを受けて、国土交通省では、関係団体と連携し、改正法に関する概要や法施行に係る実務的なQ&A等の公表等、円滑な運用に向けた取り組みを行ってきました。
しかしながら、資金洗浄およびテロ資金対策に関する国際的な基準を策定している金融活動作業部会(FATF:Financial Action Task Force)からは、各国が遵守すべき国際基準に照らして、顧客管理等に関する勧告について、我が国の対応が未だ不十分と指摘されており、それらについては、明示的に対応策を法令で規定することが求められていることから、2014年11月にこれらの指摘をクリアすべく、さらなる法改正が行われました。
これに伴い、今後、特定事業者に求められる顧客管理措置等の強化が見込まれるところですが、国土交通省としては、これらの状況を踏まえ、改正内容の周知や下位法令の改正作業等を通じ、引き続き、警察庁をはじめとする関係機関と連携し、適切な対応措置の検討を進め、宅地建物取引業におけるマネー・ローンダリング防止に関する取り組みを図ってまいります。
また、暴力団等の反社会的勢力の社会からの排除については、政府全体で取り組んでいるところであり、本年4月1日施行の改正宅地建物取引業法においても、宅地建物取引業の免許及び宅地建物取引士の登録に当たっての欠格要件として、暴力団員等であることを追加しております。 国土交通省では、こうした取り組みの更なる進展に向け、引き続き、不動産取引からの反社会的勢力の排除を含めた業界のコンプライアンス体制確立に向けた活動に対する支援を行ってまいります。
以上、本年重点的に取り組むべき不動産業政策についてご紹介いたしました。これらの取り組みを進めるに当たっては、関係部局や関係団体とよく連携をとってまいります。